エティエンヌ・ブルゴワ 「タラ号プロジェクトは、共有すべき科学でもある!」

© Bourgois

グリーンランドから帰還したスクーナー船タラ号は、現在アジア太平洋地域のサンゴ礁やその生態系について調査する新たなプロジェクト(2016~2018年)に向け準備を進めています。この機会に、エティエンヌ・ブルゴワにこれまでのプロジェクトや現在の優先課題(タラ2号や今後の北極探査など)について話を聞いてみましょう。

 

タラ新聞:あなたは全世界で2,200名が働くアニエスベーという会社の代表取締役で、タラ号プロジェクトの共同創設者兼委員長でもありますが、海に向き合う動機は何でしょうか?

エティエンヌ・ブルゴワ:当初、タラ号は全くの個人プロジェクトでした。私とアニエス・トゥルブレ(アニエスベー)にとって海や帆船は、何よりも家族の歴史の一部であり、心から情熱を持てるものでしたから、2人で一緒に船を購入したのです。その後、もっと大きくプロジェクトを成長させるべきなのではと思いました。今や期待通りに拡大し、プロジェクトの長期的成功につながっています。アニエスベーにとって、タラ号はこれまでも現在もとても重要な存在です。アニエスベーは基礎研究への資金拠出を念入りかつ大胆に実行し、環境問題に取り組んできました。ファッションデザイナーとしては異例です。このようなイニシアチブに今後も資金が拠出されることが重要です。私は企業トップで、時間的にとても忙しいのは確かですが、タラ号は私に一層のエネルギーを与えてくれます。そして、タラ号プロジェクトに150%の力を注いでいるロマン・トゥルブレやチームの存在もあります。

 

タラ号が過去12年間、科学者チームと協力して実施してきた多くのプロジェクトについてどのように考えているか、簡単に教えていただけますか?

非常に素晴らしい成果が得られたと考えています。2003年の開始以降、私たちは科学に焦点を当てて、広範囲の探査に基づく主要な研究プログラムを開始しました。スクーナー船タラ号は科学者やアーティスト、作家、子どもたちにとって、豊かな交流と出会いの場です。毎回異なるプロジェクトは、通常複雑な準備を要するものですが、私が知る限りどれも素晴らしい冒険です。とはいえタラ号は本来北極探査船であり、私は何としても当初から想定されていた任務である北極探険をしたいと決めていて、2006~2008年にそれが実現しました。私たちは以前から北極に関心を持っていたのですが、国際極年(IPY)は 記録的な解氷が記録された年でもあり、北極がいかに重要かを思い知らされました。私たちは南極にも向かい、プラスチック汚染について調査しました。(ちなみに、南極のプラスチック汚染の結果が発表されれば、地中海のプラスチック汚染という深刻な問題について私たちが推計を発表した時と同様、間違いなくメディアが大騒ぎするでしょう。)私たちはプランクトンやその気候への影響にも注目してきました。タラ号海洋プロジェクト(2009~2013年)の前後で 私たちを取り巻く状況に明らかな変化がありましたが、タラ号プロジェクトには冒険という別の側面もあります。スクーナー船タラ号は探険という18世紀の理想をよみがえらせているのです。出航して海に出てしまえば、国境はありません。

 

タラ号が『サイエンス』の表紙を飾りましたが、1つのサイクルが終わり新たな冒険が始まるということでしょうか?

2009年初めに3年間に及ぶタラ号海洋プロジェクトを開始し、2015年にその論文が発表されました。もちろん、これほど権威のある雑誌から認められたことで、探査に参加したタラ号の乗組員や科学者は本当に喜んでいます。私としては、探査結果の掲載を待ちつつも、もっと多くのことを知りたいと切望していました。非常に高度な機械を用いてサンプルを収集するのですが、分析はタラ号内ではなく陸上の研究所で行われ、長い時間を要します。まず探査を行い、科学調査を実施してから研究成果の発表となるわけです。そして今こうして、はるかアジアに至るまで圧倒的なインパクトを与える『サイエンス』誌に掲載されています。

 

Etienne Bourgois - S.Bollet : Fonds Tara

 

情熱が伝わってきますね。

はい。私たちのささやかなレベルでも、知識の進歩に貢献できるわけですから。『サイエンス』誌の論文は、今後長期にわたり海で起きている現象を知るための指針になると言われました。私たちが、時には航海にぎりぎり足りる程度の船体や予算で、タラ号を使って貢献できたということは象徴的です。素晴らしいことです。チームワークに感謝します。科学団体とともに活動するのは、大きな喜びでありモチベーションの源にもなると思います。

 

タラ号プロジェクトは、海でも陸でも類まれな人類の冒険なのですね。

はい。2014年の地中海探険プロジェクトで各地に寄港し、人々に出会い現地での取り組みをサポートした時にそのことを感じました。訪問国の治安が 不安定な場合もあり、人々の優先課題が気候ではないことは容易に想像がつきますが、それでも一般の人々が私たちと同じくらい環境問題に懸念を抱いていることが分かりました。だから、タラ号は科学探査船であると同時に、現在と未来を結ぶ人道支援船だと思うのです。多くの大都市が海岸に建設されています。公害や地球温暖化、清潔な飲み水の利用、砂漠化などは、海岸から100km未満の地域に住む20億人もの人々に影響を与えている問題です。2050年までには、気候関連を理由に2億5000万人が移住を余儀なくされると推計されています。

毎回異なるプロジェクトは、通常複雑な準備を要するものですが、私が知る限りどれも素晴らしい冒険です。

 

タラ号が焦点を当てる問題の多くは政治にも影響を及ぼしていて、それは避けられないと思いますが、そういった政治的側面にはどのように対処しているのでしょうか?

「公海」に法的地位を付与しようという提案をした際にこの問題が出てきました。ロマン・トゥルブレとアンドレ・アブルと一緒にこの政治的側面の問題について取り組みました。そしてこの取組みによって、タラ号プロジェクトは国連のオブザーバーとして認められ、私たちにとって大きな一歩となりました。先進国と発展途上国のより緊密な協力を推進していきたいと思います。教育は私たちの活動の中心にあるので、UNESCOとの協力関係を再構築しました。近いうちにタラ号への寄付基金が、実行委員会を持つ本格的な基金になればと思っています。

 

短期・中期的な優先課題のうち、最も重点を置いているのは何ですか?

発祥の地であるフランスを超えて世界的にもっと報道されるよう、タラ号プロジェクトの教育活動を広げたいと考えています。フランス国民向けの啓蒙活動を続ける必要はありますが、それだけでは不十分です。タラ号は来年アジアに向かうので、ソーシャルメディアを活用しタラ号やそのメッセージ、ニュースを、特に中国や日本で宣伝していくことがとても重要だと思います。

 

では、タラ2号の噂はいかがですか?既に計画が進んでいるのでしょうか?

数か月前、私が新しい船の提案をしたことは事実です。タラ号が海で活躍し始めて25年が経ちます。多くの負荷がかかり、メンテナンスも必要になって きます。それを考えると、帆船ながらもより大型の海洋調査船タラ2号の建造もおそらく検討すべきかもしれません。新しい素材で建造され、新たなエネルギー源を使用する。エネルギー源については既に候補が挙がり始めています。そう、2号計画があるのは確かですが、この類のプロジェクトには長期的な資金確保が課題なのです。タラ2号の可能性について今後検討は進めつつも、当面タラ号が啓蒙活動の先頭に立ち続けるでしょう。

 

Maéva Bardy / Tara Expeditions Foundation

 

現在、タラ号はアジア・太平洋でのサンゴ礁や関連生態系の研究探査を準備していて、2016年春にロリアン(フランス)から2年間の航海に向かう予定ですが、これは新しい大きな一歩といえるでしょうか?

そうですね、タラ号は熱帯の海向けに設計されているわけではありませんが、適応可能だと思います。アジアが私たちにとって新しい一歩となるのは確か です。タラ号の活動や海洋プロジェクトの成果について紹介し、気候変動が海に及ぼしている影響について各機関や一般の人向けに話をする予定です。フォーラムや展示会、数々の討論の場が設けられることでしょう。アジアでは、タラ号はプラスチック汚染や生物多様性の状況について新たに研究を実施する予定です。 また、サンゴ礁のサンプルを採取して、特にゲノムの研究を行います。これまでのプロジェクトの継続という形です。

太平洋ではサンゴ礁についての多くの調査が実施済みですが、重要なのはサンゴ礁が人為的な負荷にどのように影響を受けているかを比較調査し、調査で 判明したこと、しなかったことについて分析することです。大規模な研究プログラムになるでしょうし、素晴らしい航海になると確信しています。ニュージーランド、オーストラリア、日本、中国、韓国、台湾の研究者をタラ号に迎えられればと考えています。タラ号プロジェクトは、共有すべき科学でもあるのです!

インタビュアー:ミシェル・テマン