プランクトン:神秘的な世界を知る

© C.Guiguand Tara Oceans

タラ号海洋プロジェクト中に全世界の海で実施された、最も広範囲のプランクトン調査が終了して18か月近く経過した現在、科学雑誌『サイエンス』に掲載された5本の論文では、探査中に収集された35,000点のサンプルの秘密が明らかにされています。あらゆるレベルで、この研究結果は私たちの海洋生態系に対する理解の根本を変えたのです。

2015年5月22日は、タラ号プロジェクトの歴史で永久に語り継がれるでしょう。この日、タラ号海洋プロジェクトと関わりのある研究者誰もが、一種の緊張と安堵感が入り交ざった興奮に襲われました。2009年から2013年までにスクーナー船タラ号が実施した探査の成果が正式に発表されたからです。探査で得られた結果を詳細に記した5本の論文が、世界的に名高い科学雑誌『サイエンス』の特別号に掲載されました。これは度肝を抜くような数字です。微生物だけでも4,000万点以上もの遺伝子配列が解析され、細菌やバクテリアなど、その大部分が従来科学界では未知のものでした。
細菌と異なり、DNAが核の内部に含まれる真核生物については、塩基配列から抽出された約10億のDNAバーコードから、15万の異なる遺伝子型の存在が示されました。現在までに存在が示されたのは11,000種にすぎないものの、複数の種が同一の遺伝子型に属する可能性があるため、プランクトン様の真核生物の種の数は100万を超える可能性があります。また、これらの種の生物多様性は従来考えられていたよりもはるかに大きく、細菌の生物多様性を上回ります。さらに良いことに、分析は飽和点に達しつつあるため、新しいサンプルから得られる新たな遺伝子は少なくなる一方です。言い換えると、タラ号海洋プロジェクトチームが、地球上に生息するほぼすべてのプランクトン種を収集するという目標を達成したということになるのです。

 

Planktonこの小さなクラゲは地中海で捕獲されたもので、不死と考えられているベニクラゲという種と密接な関わりがある。© クリスチャン・サルデ/CNRS(フランス国立科学研究センター)/タラ号プロジェクト

 

果てしない相互作用の世界

得られた所見は海洋学の分野にとどまりません。史上初めて、主要な生態系がほぼ完全にその姿を現したのです。森を例に挙げると、森に生息する主要な生物は大抵知られていますが、土壌に生息するウイルス、土壌に生息する様々な動物に集まる小型寄生虫や腸内細菌についてはどれほど知られているでしょうか?タラ号海洋プロジェクトを通じた発見と『サイエンス』誌に掲載された結果によって、海洋表層はウイルスや単細胞生物から最大級の哺乳類に至るまで全容が明らかになった初の主要生態系となったのです。

前例のない今回の調査は、生態系の機能について間違いなく理解を深めたと言えます。さらに、生態系の進化や生態系についても実体を知ることができました。特に、タラ号に乗船する研究者らの仕事は海面下に生息する生物の一覧作成にとどまらず、サンプルから得られた結果により有効性が認められた複雑なコンピューターモデルを使用し、生物同士の相互作用についての理解も試みています。初期の観察結果から、環境的要因(水圧、塩分濃度など)は生物の空間的分布に予想していたほどの影響がないことが判明し、何よりもプランクトン種の相互作用に関する一連の先駆的なマッピングを通じて、捕食、共生さらには競争以上に、最も幅広く影響を及ぼしている相互作用は寄生であることが明らかになりました。このことが意味するのは、もし多くの生物が寄生する中心的な生物が消滅すると、それに寄生している他多数の生物にも影響が及ぶということです。

 

何千万もの遺伝子の塩基配列を解読

「プランクトンフィッシング」に加え、タラ号海洋プロジェクト中に実施されたサンプリング作業は、塩分濃度、水圧、温度、光量など数多くの物理化学的パラメーターを測定する機会となりました。そこで得られたデータをプランクトンの膨大な遺伝子塩基配列解読の結果と突き合わせると、特定地点における生物種の構成を決めているのは、もっぱら温度であるということがわかりました。気候変動が進む現在、この情報は極めて重要であるように思われるのですが、2015年5月22日に『サイエンス』誌で発表される数多くの発見の1つにすぎません。海洋におけるプランクトンの分布、海流によるウイルス拡散のあり方、海洋に生息する細菌群についての説明など、発表された数多くの科学的業績を一覧にまとめるのは難しいことです。どんなに重要なものだったとしても、発表された成果は今まで光が当てられなかった分野の解明に向けた最初の一歩にすぎません。プランクトンにはまだ未発見の秘密が数多くあるといえるでしょう。タラ号海洋プロジェクトで発見された何千万点もの塩基配列が解明された遺伝子は、海洋生物の80%にも及ぶものがすでにオンラインで世界中の研究者に公開されています。

今後数年、数十年のうちに、科学界からは神秘的なプランクトンの世界について新たな知見が提供され続けるでしょう。グレーとオレンジのスクーナー船タラ号を共通のきっかけとして、将来重要な発見がなされることが期待されます。

 

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数字で見るタラ号

 

12年間で10回の探査

総航行距離32万km

40か国出身の350名がタラ号に乗船し探査に参加

探査実施期間2,000日

40か国を通過

75の研究所・研究機関が参加

21の科学研究分野

海洋生物学、分子生物学、分類学、海洋学、生命情報学、生物地球化学、ゲノム科学、画像診断、生態学、モデリング、微生物学(細菌学・ウイルス学)、気象学、エネルギー収支法、降雪学、氷河学、動物学、鳥類学、考古学、地質学、化学

 

Y.S