極地研究:海水中の氷

© Tara Expeditions Foundation

適温を求めて移動する鯨のように極地で活躍するスクーナー船タラ号は、2015年、氷床での作業に復帰しました。今回向かったのはグリーンランドです。氷の極地を航海できるように設計されているタラ号はその夏、馴染みの地で活躍しました。

 

タラ号が得意の海氷へと戻りました。さかのぼること2004年、極地探査船タラ号は当時新たに所有者となったエティエンヌ・ブルゴワとアニエス・トゥルブレ(アニエスべー)のもと、北極生態系研究グループ(GREA)と提携しグリーンランドへの初の研究探査を実施しました。エティエンヌ・ブルゴワ、ジャン・コレ、さらに鳥類学者のオリヴィエ・ジルグとブリジット・サバールがその初探検に参加しました。2015年7月初め、生息する生物について調査し、11年前のデータと比較可能な情報を収集するために、彼らは再びこの巨大な氷の島の東岸へと向かうことを決めたのです。

 

タラ号北極プロジェクト:1893年のフラム号漂流後初

10年近く前、「タラ号北極プロジェクト」(2006~2008年)として知られるタラ号の初の極地探査が、ピエール・マリー・キュリー大学の海洋学者、CNRS研究ディレクターならびに欧州化学プログラムDAMOCLESの調整員(2005~2010年)を務めていたジャン=クロード・ガスカールの指導のもと実施されました。北極点周辺での地球温暖化の影響を調べるために、極地の海氷を切り分けて船を進め、大規模な探査が実施されました。1893年にノルウェーの探検家フリチョフ・ナンセンが帆船フラム号で試みた探査以来の偉業です。

15か月間にわたり浮氷群に閉じ込められながら漂流していたタラ号はようやく自由になり、上空1,500メートルまでの大気や凍てつく北極海の深さ4,000メートル地点から収集した貴重な科学的データを持ち帰ることができました。そこには、気温や水温、気圧、塩分濃度、風力、氷床がすべて、リアルタイムで綿密に観測されていました。

 

Glace2015年7月、グリーンランド東沿岸における研究探査で活躍中のタラ号。 © F・オーラ/タラ号プロジェクト

 

2013年、CNRSの研究ディレクターとして欧州分子生物学研究所(EMBL)に勤務するエリック・カルセンティと協力し、タラ号プロジェクトは北部海域でプランクトンを調査する異例の探険「タラ号海洋プロジェクト」を終えました。今日、タラ号海洋プロジェクト(2009~2013年)中に収集したデータは、科学界にとって思いも寄らない貴重な情報源となっており、プランクトンの世界から採取された数百万点もの新しい遺伝子が蔵書のような形で提供されています。タラ号海洋プロジェクトにより、海洋を調査し気候変動を判定するあり方が変わったのです。変化し続ける極地域に関する確かな知識や増え続ける科学的知見によって世界の科学界からも肯定的な反応を得ているタラ号プロジェクトは、環境問題に対する国際的な発言機関として地位を築きたいと考えています。タラ号プロジェクトの創設者エティエンヌ・ブルゴワとこの団体の事務局長ロマン・トゥルブレの目標は、海洋だけでなく海氷についても意識を高めることです。

ピエール・マリー・キュリー大学(パリ)の海洋学・気候研究所(LOCEAN)で極地海洋学および海氷を専門とするマリー=ノエル・ウセもこの目標を共有しています。彼女は海氷と極地の海の相互作用について研究を行っています。過去35年間の雪氷圏の衛星観測結果から、夏季に北極の海氷が大幅に減少していることがわかっています。夏季の海氷が記録的に減少した2012年には、10年間で14%のスピードで氷河が減少すると推計されました。「氷量の減少については過去10年以上も議論を重ねていますが、1990年代後半に収集された氷厚データからそれが明らかになりました。」と、CNRS研究ディレクターを務めるウセは説明しています。「ここ2、3年で万年氷の量は安定したようにも見えますが、全体像がわからないため、氷量の減少傾向が回復に向かっているのかはわかりません。急速に氷の範囲が減少しているバレンツ海のような地域もありますが、近年の冬に関しては氷量の減少はかなり緩やかになってきています。」

 

「海は氷で覆われている間は大気から隔離されているが、氷という蓋がなくなると、海が大気に触れ、激しい熱や湿気の循環を引き起こす可能性がある。」
マリー=ノエル・ウセ

 

海と氷に注目して気候を予測

漁業やあらゆる種類の採掘活動が膨大な影響を及ぼしている北極海の大西洋側では、問題は差し迫っています。夏は大気によって氷の表面が溶け、冬は海によって氷河が溶けるのです。

「気候とは、何よりもまず大気の問題なのです。」とマリー=ノエル・ウセは断定します。「海は氷で覆われている間は大気から隔離されていますが、氷という蓋がなくなると、海は再び大気に触れ、激しい熱や湿気の循環を引き起こす可能性があります。そして、晩夏、晩秋の氷河にその後数か月の気候が左右される場合があります。つまり、氷量は北極地域の冬の気候、さらには大規模な相互作用を通じて温帯地域にも影響を及ぼすのです。」気候予測は、現在最も重要な論点の1つとなっています。気候予測のためのデータは海や海氷から得られることがわかっています。「季節ごとの氷量を予測することは可能となりつつありますが、12か月以上先まで予測可能にすることが課題です。」そして、海全体を見ることが重要です。「海氷とは、海面の凍った部分にすぎません。」とマリー=ノエル・ウセは付言します。「深海では、気候変動の現象がもっとゆっくり生じるため、影響も長期的に現れます。この場合、10年先のスケールで予測可能と考えています。」

北大西洋の海面温度の変動は、何十年もかけて北極や世界の気候に影響を与えます。一方、北極も大西洋の海面や深海での海水循環に影響を及ぼします。これにより、北極からの密度の高い冷水が南下し、赤道地域まで回流してしまうのを妨げられる可能性があります。

 

20192021年に第2回北極漂流を計画

海が気候システムに影響を及ぼす重因子であることを呼びかけるタラ号プロジェクトの政策提言は、科学者の知見を活用して立案されています。このように確かな知識を基盤として活用することで、当団体は国際機関向けの諮問団体として地位を固めました。公海イニシアチブを立ち上げ、国連のオブザーバーとしての地位を認められたタラ号プロジェクトは、今後北極評議会のオブザーバーとして承認されることを期待しています。

一方、タラ号は北極の氷河群に戻る準備をしています。2006年に開始された第1回目の北極漂流に続き、2019~2021年には第2回目となる北極漂流がすでに計画されています。