地球のために活動するスクーナー船、タラ号

サンゴ、人間の老化を解明するための扉

© Jonathan Lancelot / Fondation Tara Océan

サンゴは、明らかに素晴らしい生き物です。サンゴは美しく、色鮮やかな石灰岩の構造物を生成することで、多くの海洋生物に住処を提供し、何百万人もの人々に食糧を保障し、海岸線を保護していますが、人間の健康に応用しうる有望な可能性も示しています。そしてサンゴが科学者の関心を引くもう1つの理由があります。それは、サンゴがもつ驚くべき老化への耐性です。

サンゴ—老化しない動物

サンゴが「老化をしない」という特徴は、人間の老化の過程について、より多くのことを私たちに教えてくれる可能性があります。しかしサンゴの老化と人間の老化との関連性とは、厳密にどのようなものなのでしょうか。なぜ、この動物は老化の研究にとってとても興味深いのでしょうか。先ず、サンゴは群体を作る動物です。その石灰岩の構造はかなりの年数をかけて生成され、驚くことに最初はたった1つの卵細胞から始まります。形成された年月を考慮すると、必要な細胞分裂の回数は膨大です。

ヒトの細胞分裂の際には、染色体DNAは先端部分(テロメア)が少しずつ「かじられ」ます。そして、染色体の端に包まれている遺伝子情報の損失を引き起こします。この遺伝子情報の損失は細胞が老化する原因となります。つまり、もはや細胞分裂できなくなり、老化が始まります。この過程が脊椎動物の老化の根源です。サンゴは細胞分裂するにも関わらず、その遺伝子情報が損失されることはないようで、まるで老化しないようです。どのようなメカニズムによって、これらの細胞の老化耐性は高いのでしょうか。そのメカニズムは、染色体の末端にあるDNAを保護することができるのでしょうか。科学者がサンゴの明確な年齢を特定するのは困難ですが、いくつかのサンゴは確実に数百年は生きています。

サンゴの研究を興味深いものにしているもう1つの理由は、人間のゲノムとサンゴのゲノムの近接性です。ヒトの細胞分裂の際に削られているDNAの先端部分の塩基配列は、サンゴの配列と同じです。
L’équipe scientifique en charge de l’étude des récifs coralliens travaille en binôme durant les plongées.© Pete West / Fondation Tara Océan

タラ号が収集したデータによって、サンゴの老化耐性を理解する。

Tara財団によって2016年に開始された「タラ号太平洋プロジェクト(2018年10月、スクーナー船のロリアンへの帰還にて完了)」はこれまでに無い、いくつかの大規模なサンゴに関する研究を前進させるでしょう。特にコート・ダジュール大学のエリック・ギルソン(Eric Gilson)が指揮するIRCAN(Institute for Research on Cancer and Aging癌と老化現象研究所)によって行われた、サンゴが老化に抵抗することを可能にするメカニズムの研究に関してです。これまでこのテーマに関する研究はほとんど行われておらず、包括的なものでもありませんでした。タラ号の船上で集められたサンプルとデータは膨大な数に及ぶので、科学者はサンゴが老化する過程に関する特定の疑問に、確実に答えることができるようになるはずです。

海洋探査を通して、タラ号太平洋プロジェクトチームは代表的な3種のサンゴを採取しました。ある特定の種が、他の種より老化に対してより抵抗力があるのか、そしてそれらが特定のメカニズムを使っているのかなどを、研究者は明らかにすることができるでしょう。細胞分裂を繰り返し、長期間に亘って細胞を保護し、良好な状態を維持するためには、サンゴの種類にかかわらず、同じメカニズムが機能している可能性もあります。

この研究グループの科学者たち(Tara財団のパートナー)が調査できるもう1つの非常に重要な要因は、サンゴが生息する環境です。サンゴは特定の環境下でより長生きするのか、あるいは、サンゴの老化耐性と生息環境にはほとんど関係性がないのか。サンゴにとって、特にストレスを与える特定の環境がより早い老化を引き起こす可能性は十分にあります。サンゴと共生している微生物が、その老化耐性にもなんらかの不可欠な役割を果たしている可能性があります。その点については、共生する2つの生物が互いの老化耐性に影響を及ぼし得ることは、すでに分かっています。

科学者が、サンゴがどのようにして長期間に亘り良い状態を維持しているのかを解明し、これらのメカニズムがそのゲノムにコードされていることを明らかに出来れば、この発見は人間の病気治療への道筋になるかもしれません。それを達成するにはより多くの研究が必要かもしれませんが、これは重要な最初の1歩と言えるでしょう。