地球のために活動するスクーナー船、タラ号

[プレスリリース] 北極海—ウイルスの生物多様性の揺りかご

© François Aurat / Fondation Tara Océan

プレスリリース—2019年4月25日

主にタラ号海洋プロジェクト(2009~2013年)で収集したデータによって、北極海を含む世界中の海で見つかったウイルスに関するこれまでで最も包括的なカタログが完成しました。アメリカ合衆国のオハイオ州立大学が率いるこの研究は、フランス原子力庁(CEA)、フランス国立科学研究センター(CNRS)、タラ財団が連携し、タラ海洋研究連合GO-SEE (1)プログラムとなり、既知の海洋ウイルス個体群数を1万6千から20万近くへと跳ね上げました。この研究は北極海が海洋ウイルスの宝庫として重要であると結論づけ、2019年5月16日付発刊の学術雑誌『セル』(オンライン版は4月25日付)のカバーストーリーで特集されています。この成果は気候変動による影響に対して、海洋生態系がどのように応答し、その中でウイルスがどのような役割を持つのかを理解するための参考文献となるでしょう。

タラ財団とパートナー企業・団体によって開始されたタラ号海洋プロジェクトでは、フランス国立科学研究センター(CNRS)、フランス原子力庁(CEA)、そして欧州分子生物学研究所(EMBL)とも連携して3万5千点に及ぶ海洋プランクトンサンプルを採取し、それらを注意深く分析しました。そして、タラ号海洋プロジェクトは20に及ぶ国際研究所から200名を超える科学者が一同に協力する場を提供し、現在「タラ海洋研究連合」が立ち上がっています。

オハイオ州立大学の研究者によって行われたこの新しい研究によって、既知の海洋ウイルス個体群数はこれまでの1万6千から20万近くまで増加し、5月16日付で発刊された学術雑誌『セル』に掲載されました。ウイルスは海面で炭素を取り込み海底へと運ぶ、「生物ポンプ」の役割を果たしています。従ってこれらのウイルスを特定し、その機能、ダイナミズム、そして海洋生態系における役割を解明することは非常に重要です。この研究によって各々の個体群における遺伝的差異を解明することが可能となり、研究者は海洋ウイルスの進化と地球規模の影響を知ることができ、またその結果、私たちの海洋ウイルス個体群に対する理解が深まります。

Banniere_CP_Cell_Virus © Jennifer Brum and Matt B. Sullivan / Lab. Ohio State

北極海における生物多様性を対象にした、最初の体系的な研究

北極海に隣接する国々と協力して行ったこの研究では、2013年に北極海の海氷の周縁部を航海したタラ号によって採取されたサンプルも使用されました。そこは最も気候変動の影響を受けている地域の1つです。研究者はDNAを分析し、ウイルスを特定しました。データの収集は北極海だけでなく他の海域でも行われ、先行研究よりも広い範囲、且つ深い深度から採取されました(2)。

このウイルスの詳細なカタログは、ウイルスが他の海洋プランクトン(細菌、古細菌、原生生物、動物)全てに影響を与えていることから考えても、非常に価値があります。実際に、ウイルスはバクテリア個体群に感染し、それらの代謝を刺激して進化の過程を変えることで、海が大気から炭素を隔離する能力に地球規模で影響を与えることになります。

海洋プランクトンの微生物は地球上で極めて重要な役割を担っています。海洋プランクトンの微生物は私たちが呼吸に使う酸素の半分以上を生成し、大気中の二酸化炭素を吸収して海底へと運ぶのです。

ウイルスの進化を解明するための、遺伝的差異へのアプローチ

プランクトンの個体群の中でウイルスの遺伝子情報を解析する新たな方法を開発することにより、研究者たちはウイルスの遺伝的差異を研究することが出来ました。つまり:
−各々のウイルス個体群内における個体間での遺伝的差異、
−各々のウイルス群集内における個体群間での遺伝的差異、
−世界の海の複数の生態系にまたがるウイルス群集間での遺伝的差異、そしてこれらの遺伝的差異を生み出す要因について研究しました。

このウイルスの多様性に関するグローバルマップは驚くべきものです。先ず、ほとんど全てのウイルス群集は、分布する位置と深さによって決まる5つのグループにしか分類されません。また、北極海で得られたウイルスの高い多様性も驚くべきものです。これまでの先行研究のほとんどは、単細胞生物や多細胞生物に関するもので、それらの多様性が最も高いのは、熱帯域であり、極域へ向かうにつれて減少するものだからです。

今までほとんど知られていなかったが、これらの新しい発見は、北極海がウイルスの生物多様性の「揺りかご」だということを示唆しています。そして、気候変動に大きな影響を受ける北極圏こそが、地球規模の生物多様性に関して極めて重要であることを強く示しています(3)。

Franz-Joseph-Iland-AURAT-françois-Tara-281© François Aurat / Fondation Tara

参考文献

(学術雑誌『セル』 ウェブサイト4月25日掲載)

プレス窓口

Fondation Tara – Elodie Bernollin
elodie@taraexpeditions.org
Tél : 06 95 73 26 88

CNRS – Priscilla Dacher
priscilla.dacher@cnrs.fr
Tél : 01 44 96 46 06

CEA – Manon Colonna d’istria
manon.colonna@cea.fr
Tél : 01 64 50 14 88

(1) 22のフランスおよび国際研究チームから成るタラ海洋研究連合は、下記団体の支援を受けGO-SEE (Global Oceans Systems Ecology & Evolution)を設置しました。フランス国立科学研究センター(CNRS)、フランス原子力庁(CEA)、タラ財団、ソルボンヌ大学、 PSL大学、フランス国立保健医学研究所(Inserm)、パリ高等師範学校、フランス国立開発研究所(IRD)、高等研究実習院(EPHE)、イヴリ=ヴァル=デソンヌ大学、パリ=サクレ大学、ペルピニャン大学、エクス=マルセイユ大学、トゥーロン大学、ナント国立高等中央学校、ナント大学、グルノーブル・アルプ大学、欧州分子生物学研究所(EMBL)、チリ大学 物理・数理学部。

(2)  Patterns and Ecological Drivers of Ocean Viral Communities
J.R. Brum, J.C. Ignacio-Espinosa, S. Roux et al.
(『サイエンス』 2015年5月22日掲載. DOI: 10.1126 / science.1261498)

(3)  この研究はゴードン・アンド・ベティ・ムーア財団、アメリカ国立科学財団、そしてOceanomicsおよびFrance Génomique (Investments for the futureプログラム)の支援を受けています。