地球のために活動するスクーナー船、タラ号

海洋巨大ウイルスの地理的分布を全球規模で解明

© Tara, le 11/01/2010.Filtration du plancton.© David SAUVEUR

2020/09/08

海洋巨大ウイルスの地理的分布を全球規模で解明
―海域による特異性が明らかに―

京都大学化学研究所 遠藤寿 助教、緒方博之 同教授らが率いる国際共同研究チームは、タラ号海洋プロジェクト(2009−2013)で採取されたサンプルを用いて、海の巨大ウイルスの分布を全球規模で明らかにしました。更に、巨大ウイルスが海洋生態系において植物プランクトンも含めた多様な宿主の集団動態を決めるキープレーヤーとして機能し、物質循環や地球温暖化の制御にも深く関係している可能性を示唆しています。

soixanteseize-tara-expeditions図1© Guillaume Bounaud – Christian Sardet / SoixanteSeize – Tara Ocean Foundation

2009年9月に始まった、タラ号海洋プログラムでは、4年かけて航海しながら、海洋性プランクトン(ウイルス、バクテリア、植物プランクトン、動物プランクトンといった微生物から成る生態系)を地球規模で調査し、生物同士や環境との相互作用の理解を深めること、気候変動がそれらに与える影響を明らかにすることを目的としその後も7年以上分析を続けています。海上での938日にわたる大冒険は、地中海、インド洋、大西洋、太平洋、さらには南極海、北極海へも及びました。当プロジェクトは、フランス国立科学研究センター(CNRS)、欧州分子生物学研究所(EMBL)、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)、フランス政府、そして多くの公共機関や民間企業からの支援を受け、調査の科学責任者である生物学者エリック・カルセンティとタラ号プロジェクトの責任者エティエンヌ・ブルゴワと、ロマン・トゥルブレが共同で主導しました。

本研究では、このタラ号海洋プロジェクト(2009−2013)で、科学探査船タラ号により全球規模で採取した海水サンプル由来のメタゲノムデータを計算機により解析し、そこに存在する巨大ウイルスの系統を解析しました。その結果、巨大ウイルスの様々な系統がどの海域にも存在していることが明らかになりました。また、巨大ウイルスの系統組成が、海域や大きさ(サイズ画分)により大きく異なることが分かりました。特に、北極海では、巨大ウイルスはその多様性が低い一方、北極海固有の系統が多数見出されることが明らかになりました。このように、全球規模で採取された海水サンプルが、巨大ウイルスをはじめ、海の生態系を理解し今後の気候変動や環境変化の影響の理解に大変重要な役割を担っています。

図2.タラ号海洋プロジェクト地図図2.タラ号海洋プロジェクト地図

巨大ウイルスとは?

ウイルスは他の生物に感染し、細胞内の代謝経路やタンパク質合成装置を利用しながら増殖する寄生体です。ウイルスは陸上だけではなく、海洋にも多く生息しています。コップ一杯の海水に数億のウイルスが存在すると見積もられますが、これは他の海洋生物(プランクトン、バクテリアなど)の数を大きく上回ります。

今世紀に入り、様々な環境から、粒子サイズとゲノム長で一部の単細胞生物を凌ぐほど大きなウイルスの発見が相次いでいます。他のウイルスと比べ大きいため「巨大ウイルス」と名付けられました(図3)。冷却塔、池、温泉または海洋などから分離されたミミウイルス、パンドラウイルス、メドゥーサウィルスなどが代表するこうした巨大ウイルスは、生命の起源と進化に新たな謎をもたらしています。同時に、彼らが現在の地球上でどのような役割を担っているのか定かではありません。タラ号海洋プロジェクトでは、海洋環境における巨大ウイルスの存在量が初めて推定されました。本研究は更に、当プロジェクトで全球規模から採取した海水サンプル由来のメタゲノムデータを計算機により解析し、そこに存在する巨大ウイルスの系統を解析しました。

Mimivirus virus factory©Ogata-University-of-Kyoto_1200
図3.巨大ウイルスのミミウイルスがアメーバに感染している様子。小さな青い点の一つ一つがミミウイルスで、強い蛍光の青白い丸い(球状)の部分がミミウイルスを作るウイルス工場。

巨大ウイルスはどの海域にも存在している

本研究により、巨大ウイルスの様々な系統がどの海域にも存在していることが明らかになりました。また、巨大ウイルスの系統組成が海域や大きさ(サイズ画分)により大きく異なることが分かりました(図4)。特に、北極海では、巨大ウイルスはその多様性が低い一方、北極海固有の系統が多数見出されることが明らかになりました。具体的には、北極海で観察された巨大ウイルスの22%は他の海域では見つかりませんでした。北極海では現在、気候変動による生態系構造の変化が顕在化しており、今後巨大ウイルス群集がどのように環境変化に応答するのかに注目する必要があります。

図4. 各海域で出現した巨大ウイルスの全系統数、固有の系統数、および海域間で共通に見られた系統の数。図4. 各海域で出現した巨大ウイルスの全系統数、固有の系統数、および海域間で共通に見られた系統の数。

巨大ウイルスが海洋生態系を知る上で無視できない存在

太陽光が届く有光層(深度0 m~200 m)と太陽光が届かない中深層(深度200 m~1000 m)の比較でも、観察される巨大ウイルスの系統組成が大きく異なりました。このような海域や深度による巨大ウイルスの系統分布の変動は、そこに生息する真核微生物(植物プランクトンや従属栄養原生生物)の分布と強く相関関係があることを研究チームは発見しました(図5左)。一方、不思議なことにいくつかの海域では中深層に観察される巨大ウイルスの系統がほぼ全て(99%)有光層にも存在していることが分かりました。このことを説明するために、研究チームは表層と中深層で巨大ウイルスの組成を詳細に比較し、両深度での巨大ウイルス系統組成の類似度が例外的に高い場所があることを発見しました。さらに、こうした場所では、表層における植物プランクトンによる基礎生産(生物が二酸化炭素から有機物を生産すること)が高く、中深層で巨大ウイルスの多様性が上昇していることまで突き止めました。研究チームは、このような現象が起こるのは、特定の海域・環境で巨大ウイルスが表層から沈降しているためであると考えています。つまり、海洋微生物生態系は有光層と中深層で一部繋がっており、個々の粒子では自重による沈降が不可能な巨大ウイルスは、真核生物に感染あるいは付着することで中深層へ輸送されている可能性があります(図5右)。

図5.(左)本研究で推測された真核生物-巨大ウイルス群集間の相互作用 。青で示されているのは巨大ウイルス、緑は植物プランクトン、紫は動物プランクトン図5.(左)本研究で推測された真核生物-巨大ウイルス群集間の相互作用 。青で示されているのは巨大ウイルス、緑は植物プランクトン、紫は動物プランクトン。(右)中深層への巨大ウイルスの輸送機構モデルの概略図。

波及効果と今後の予定

これらの研究結果は、広い海洋において巨大ウイルスが様々な真核微生物を宿主として地域ごとにコミュニティーを形成していることを示しています。一部の巨大ウイルスは植物プランクトンに感染することでその個体群を死滅させることがすでに報告されており、今回観察された巨大ウイルスの多様性と遍在性は、この死滅効果が全海洋の多様な生物群に及んでいることを示しています。このことから、巨大ウイルスが真核微生物の局所的な群集動態や粒子沈降に影響を与え、その結果、地球規模の物質循環に寄与している可能性が示唆されます。巨大ウイルスも含めてウイルス全体が海洋での物質循環にどのように関わっているのか、さらなる研究が期待されます。今回明らかになった巨大ウイルス地理分布は、そうした今後の研究の基盤になると期待されます。

研究者のコメント

本研究を含む近年の成果により、巨大ウイルスが海洋生態系を知る上で無視できない存在になりつつあります。今後は、巨大ウイルスの現存量や生態的機能を物質循環の観点から定量化したいと考えています。(遠藤寿)

本研究は、巨大ウイルス全体の分布を全球規模で解析したユニークな研究です。今後は時系列データを解析することにより、巨大ウイルスのダイナミックな生態学的機能について明らかにしていきたいと考えています。(緒方博之)

研究プロジェクトについて

本研究は科研費(新学術領域提案型「ネオウイルス学」、基盤研究(B)、若手研究)、京都大学化学研究所国際共同利用・共同研究拠点の支援を受けて行われました。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Biogeography of marine giant viruses reveals their interplay with eukaryotes and ecological functions(海洋巨大ウイルスの生物地理が明かす真核生物との相互作用と生態学的機能)
著  者:Hisashi Endo, Romain Blanc-Mathieu, Yanze Li, Guillem Salazar, Nicolas Henry, Karine Labadie, Colomban de Vargas, Matthew B. Sullivan, Chris Bowler, Patrick Wincker, Lee Karp-Boss, Shinichi Sunagawa, Hiroyuki Ogata
掲 載 誌:Nature Ecology & Evolution DOI:2020/09/07 16:00 London time.

<お問い合わせ先>
氏名 遠藤 寿(えんどう ひさし)
所属・職位 京都大学化学研究所・助教
TEL:0774-38-3272
E-mail: endo@scl. kyoto-u.ac.jp

氏名 緒方 博之(おがた ひろゆき)
所属・職位 京都大学化学研究所・教授
TEL:0774-38-3274
E-mail: ogata@kuicr. kyoto-u.ac.jp

<Tara Océan 財団についての問い合わせ先>
氏名:パトゥイエ 由美子
所属・職位 Tara Océan 財団 日本事務局長
Email: yumiko@fondationtaraocean.org