地球のために活動するスクーナー船、タラ号

赤道から極域に至るプランクトンの多様性と活性の変動

© François Aurat / Fondation Tara Océan

プレスリリース:2019年11月14日

Tara Océan (タラ・オセアン)財団とフランス国立科学研究センター(CNRS)、欧州分子生物学研究所(EMBL)、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)、ソルボンヌ大学およびパリ人文科学研究大学との共同で実施された2009年から2013年に渡るタラ号海洋プロジェクトの新たな探査・研究結果により、世界の海洋に生息するプランクトンの多様性と機能が、緯度によって劇的に変化する事が明らかになりました。

2009年から2013年に行われたタラ号海洋プロジェクトの最初の成果は、科学界に、熱帯海域と温帯海域のプランクトンの多様性と相互作用を理解するための基盤的知見を提供したことです。今回の二つの研究 —一つはパリ人文科学研究大学(PSL)・パリ高等師範学校(ENS)とフランス国立科学研究センター(CNRS)のリュシー・ジンゲール氏(Lucie Zinger)、クリス・ボウラー氏(Chris Bowler)によるもので、もう一方はスイス・チューリッヒ工科大学の砂川伸一氏によるもの—では、2013年のタラ号北極プロジェクトで行われた極圏航海から得られた新たなデータを取り入れ、更なる一歩を踏み出しています。これらのデータは、全球規模の遺伝情報と画像データセットであり、ゲノムセンター(CEA/フランス国立シーケンスセンター)、ロスコフ海洋生物学研究所、そしてヴィルフランシュ海洋研究所(フランス国立科学研究センター/CNRSとソルボンヌ大学の共同管理)が 生成したものです。 この研究にはタラ号海洋プロジェクトコーディネーターである京都大学の緒方博之氏のグループも、遺伝情報の解析に貢献しました。

11月14日付発行の科学誌『セル』に掲載されたこれらの成果は、プランクトンが世界の海洋に不均一に分布し、赤道から極域に亘り変化する環境条件に対して異なる適応をしている可能性を提示しました。これらの発見は、海水温がある閾値を超えた場合に、生態的、環境的、そして経済的に重要な意味をもちうる事を示しています。

またこれらの研究結果は、最近のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「海洋と雪氷圏の気候変動に関する特別報告書」と共に、気候変動が海洋の生物多様性に与える潜在的なインパクトに関する新たな知見を与えました。ジョワキム・ クローデ氏らが(科学誌『セル』11月14日号に掲載されたOne Earth perspectiveを参照)示すように、科学は、具体的で運用可能な解決策を導入する政治的意思決定のための科学的根拠を常に提供しなければなりません。それは、ローカルからグローバルな規模に至るまで、持続可能モデル実装のために不可欠な社会変革の基盤になります。これらは12月のCOP25(2019年国連気候変動会議)や来たる「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(2021-2030)」に向けて、大変重要なステップなのです。

プランクトンの多様性勾配と活性が赤道から極域まで明らかに

水に入るCDTD © François Aurat / Tara Ocean Foundation

水に入るCDTD © François Aurat / Tara Ocean Foundation

海は、地球上で唯一の連続した生態系であり、地球の健全さの基盤であるとしばしば言われます。海流にのって漂流する天文学的な数のウイルス、微生物、小型の生物(総称して<プランクトン>)は、きわめて重要な役割を果たしています。海洋の食物連鎖の基盤になり、大気中の二酸化炭素の大部分を取り込んで、光合成によって酸素を放出します。

パリ人文科学研究大学(PSL)の一校、パリ高等師範学校(ENS)の助教授であるリュシー・ジンゲール氏、そしてパリにあるフランス国立科学研究センター(CNRS)の研究責任者であるクリス・ボウラー氏(Chris Bowler)によって率いられた研究グループが、タラ号海洋プロジェクトの期間中に、世界189か所のサンプリング地点から収集したデータを解析しました。彼らの目的は、すべての主要なプランクトンの地球規模での分布を解明し、それが気候変動にどのように応答するのかを理解するために、その生物多様性の変動要因を特定することでした。科学者たちは、新規および既に公表された遺伝子データを組み合わせて種を特定するとともに、最先端の画像解析技術を用いて、サンプル中に存在するそれぞれの種の量を計測しました。「プランクトンの多様性は赤道付近でより高く、極に向かうにつれて減少することを、我々の研究結果は明確に示しています。」とリュシー・ジンゲール氏は説明します。「このような緯度多様性勾配の存在は、ほとんどの陸上生物において認識されており、アレクサンダー・フォン・フンボルト(Alexander von Humboldt)によって200年前に記述されています。彼の生誕250年の年に、巨大ウイルスから微小後生動物まで、世界の海洋のほとんどのプランクトンにおいて、その説の妥当性を我々が証明できたことは、興味深いめぐりあわせです。」

同時に、チューリッヒ工科大学(スイス)のマイクロバイオーム研究の助教授である砂川伸一氏によって率いられたグループは、原子力・代替エネルギー庁(CEA)ゲノムセンターによって生成された、タラ号海洋プロジェクトの大規模なDNAおよびRNA配列データセットの解析に取り組みました。その結果、北極・南極にまで広がった、遺伝子数にして4,700万におよぶ全球規模海洋微生物遺伝子カタログを新規作成し、本日、論文とともに発表しました。

研究チームはこれらのデータを使い、遺伝子転写産物を測定することによって、微生物群の活性を解析しました―これは、メタトランスクリプトーム解析と呼ばれます。言い換えれば、微生物の環境条件の変化に適応する能力を理解するために、微生物のゲノムにおいて、どの遺伝子が活発に発現しているかを解析しました。「この解析によって、海洋微生物が何をできるかという可能性だけでなく、それらが実際に地球規模で何をしているかが研究できるようになりました。私たちは、バクテリア群や古細菌群のトランスクリプトームの応答のメカニズム、つまり新しい環境条件への適応メカニズムを見い出し、それらが赤道付近と北極・南極で大きく異なることを発見しました。」と砂川伸一氏は述べています。

水温は、海洋における微生物の分布と活性のキーパラメーター

バクテリアでみられた多様性勾配と機能は、緯度の上昇に伴って規則的に変化する訳ではありません。微生物の活性と多様性は赤道と緯度40度(北緯または南緯)の間では安定した状態が保たれています。それから、緯度約60度(北緯または南緯)に向けては急速かつ段階的に変化し、そして新たに安定した状態に入ります。

この2つの生態的境界(1つは赤道の北側、もう1つは赤道の南側)は、表層海水における物理的、化学的変化、特に水温が急落する境界と一致します。この境界線の両側における微生物個体群の構成と量は、非常に異なります。リュシー・ジンゲール氏が率いるチームによって作られたプランクトン多様性に関する新しいマップは、すべてのプランクトン—バクテリアから古細菌、原生生物、動物プランクトン、そしてほとんどのウイルスに至るまで—に類似した境界が存在することを示しています。ここでもまた、水温が主要な因子であり、資源の量は二次的な要因と考えられるようです。

温帯海域と寒帯海域の「熱帯化」

underwater bongo net_MG_0450 ©David Sauveur _ Fondation Tara Ocean© David Sauveur / Tara Ocean Foundation

水温がプランクトンの分布を決める重要なパラメーターであるという事は、気候変動がこのまま進むとどのような影響が出るのかという問題を突きつけます。最近の最も正確なIPCC(気候変動に関する政府間パネル)モデルに基づき、リュシー・ジンゲール氏のチームは、パリ高等師範学校(ENS)、パリ人文科学研究大学(PSL)のローラン・ボップ氏(Laurent Bopp)と共同で、今後あり得るプランクトンの生物多様性の変化を予測しました。これらの予測は、さらに洗練され検証される必要がありますが、海水温が高くなると温帯海域および寒帯海域の「熱帯化」につながる可能性があり、プランクトンの多様性の増加を引き起こす事を明確に示しています。

温帯海域と寒帯海域は現在、いくつかの生態的、経済的理由から非常に重要です。例えばこの海域は大気中の炭素を吸収し、海中に隔離することにおいて重要な役割を果たしています。また、これらの海域は活発な漁場である一方、広い範囲が絶滅危惧種のためのシェルターとなっていることから、保護されています。しかしながら、リュシー・ジンゲール氏のチームが予測していることは、多様性についての最も重大な変化がこれらの海域で起こるだろうということで、恐らくそれは関連している生態系を変え、世界規模で深刻な結果をもたらすというものです。

温帯から寒帯水域にかけて、どのような応答メカニズムが関わっているのか?

Tara and Plankton ©Christian &Noé Sardet _ Fondation Tara Oceanタラとプランクトン ©  Christian and Noé Sardet / Tara Ocean Foundation

現存のモデルでは、海洋生態系がどのように気候変動に適応していくのかということを正確に予測することができません。しかしながら、砂川伸一氏のチームが行った研究は、少なくとも浮遊性細菌と古細菌に関して、そのメカニズムについての手がかりをもたらしました。一般的に、微生物群集は2つの方法によって環境変化に適応することが可能です。第1の方法は、遺伝子発現を変えて代謝を適応させ、新しい環境を最大限に活用するものです。第2の方法は、微生物群集が適応度の低い種を、適応度のより高い種に置き換えるというものです。トランスクリプトームを調査することで、科学者はどちらの適応メカニズムが、どの環境で優勢になるかということを解明することが可能になりました。

水温が高い海域—北緯40度と南緯40度の間—に居る微生物群には、より高い多様性が見られます。この微生物群は適応するために新しい特質が必要になった場合、切り替えを始めたり、あるいは止めたりすることができる大きな遺伝子プールから利益を得ています。その結果、プランクトンは代謝の変化により適応することができ、生長し続けることが可能になります。しかしながら極地の寒帯海域においては、微生物と遺伝子の種類はより少なく、プランクトンは遺伝子発現を変えるよりも、むしろ種のターンオーバーによって適応しています。このことは、これら寒帯海域における微生物群のニッチがより狭く、その中のいくつかは海の温暖化への応答として代謝を適応させることができないことを示しています。その後、代謝を適応させることができない微生物群は消滅し、温帯海域から来た新しい種に置き換わる可能性があります。

このように寒帯海域とそれ以外の海域は、微生物群に対して特有の適応メカニズムをもつ2つの異なる生態系として考えられます。この結果は、異なる海域が気候変動に対し、それぞれ異なる応答をする可能性を示しています。

 キーポイント

- プランクトンの多様性は、緯度にともなって変化がみられます。
- 予想されるプランクトン多様性の将来的な変動は、重要な生物地球科学的かつ経済的インパクトを有している可能性があります。
- 浮遊性微生物群の気候変動に応答するための適応メカニズムは、寒帯海域とそれ以外の海域では異なります。
- 極地の寒帯海域における浮遊性微生物はそれ以外の海域のプランクトンと比べ、特定のニッチにのみ適応しており、寒帯海域の浮遊性微生物は、さらなる気候変動に適応が出来なくなる可能性があります。

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科学出版物

F.M. Ibarbalz et al., “Global trends in marine plankton diversity across kingdoms of life”, Cell (2019)
G. Salazar et al., Gene expression changes and community turnover differentially shape the global ocean metatranscriptome, Cell (2019)
J. Claudet et al., A roadmap for using the UN Decade of Ocean Science for Sustainable Development in support of science, policy and action, One Earth (2019)

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Tara Océan (タラ・オセアン)財団について

Tara Océan 財団
Tara Océan 財団は、フランスで初めて海に特化した公益財団法人として認定された財団です。気候変動と環境リスクに伴う変化を探求し、理解し、予測するため、卓越した国際的研究機関と共同でハイレベルな海洋科学を追求しています。財団の2つの重要な使命は、探査と共有です。Tara Océan 財団は、海洋を人類共通の責任の場と位置付け、その重要な生態系を保護するため、人々の海洋への関心を高める啓発活動や、若い世代への海洋環境教育も行っています。

2009年-2013年 タラ号海洋プロジェクト

2009年9月に始まったタラ号海洋プロジェクトは4年に及ぶ航海で、世界200か所以上の場所でプランクトンのサンプル採取を行いました。その目的は、気候変動の文脈でプランクトンの生態系を調査するというものでした。世界から集まった120名の科学者はこの14万キロに及んだ冒険に参加し、3万5千ものサンプルを採取し、最終的に20万に及ぶ新しい微生物を発見しました。「その内の95%は未記載種のままです。」と言うのは、フランス国立科学研究センター(CNRS)および欧州分子生物学研究所(EMBL)の研究者で、タラ号海洋コンソーシアムのディレクターであるエリック・カルセンティ(Eric Karsenti)です。エリック・カルセンティ曰く、「最初の成果は私たちの期待を超えるものでした。タラ号プロジェクトは大量のデータを私たちの知識に加えてきました。これらのデータは、未だ解析中です。現在行っているものの1つが、大量の新しいデータセットを一般公開するというもので、このデータセットはゲノム解析を用いて、単一のプラネタリー・バイオームを説明するものとしては集合的に最も大きなものとなります。」タラ号は歴史上、砕氷船を除くどの船よりも北(北緯88.6度)で航海し,同年に北東航路と北西航路を航行した最初の船でした。